大規模な品質保証チームの場合は、バッチ記録を綿密に調べて適切な文書化慣行(GDP)を確認し、基準外れが見つかったらインシデント調査に取り掛かる必要があります。
また、多くの問題が品質に影響する可能性があるため、紙による記録をたどって解決に至るまでには数週間かかる場合もあります。その間、調査対象の製品はリリースを待つことになるので、患者が利用できるまで時間がかかります。
今はもっと良い方法があります。品質問題の削減、迅速な解決、運用の改善のために製造実行システム(MES)に注目しているライフサイエンス企業が増えています。
プロセスの最初から
MESソフトウェアを使用すると、プロセスを文書化するだけでなく、立ち上り時の品質問題を最小限に抑えるための各手順のガイドになる総合的な電子バッチ記録(EBR)を作成できます。
ご存じのとおり、製品の品質を維持するために、標準操作手順(SOP)に従うことは重要なことです。しかし、特に手作業による場合、最善の意図を持って行なっても、紙ベースのSOPによる基準外れは難なく発生します。
オペレータが材料の追加ステップ中にバーコードを誤って読取ったり、誤った温度セットポイントを入力したり、間違ってページをめくって間違ったステップに移動したり、不注意に未調整の機器を使用したりすると、何が起こるでしょうか。
場合によっては、バッチ全体に損失が及ぶことになるでしょう。
MESはEBRの機能を活用して、手順をスムーズに進めるための電子ガードレールを追加し、文書化および手順の誤りによるエラーを50~80%低減します。
その原理をご説明しましょう。ここで、その例をご紹介します。MESは、材料の追加を電子的に検証するためにバーコードスキャンを要求し、手作業入力の誤りを防ぐために入力制限を組み込むことができます。システムは、プロセス中のオペレータの位置を正確に示し、レシピ設計どおりの続行を可能にします。
適切な機器の使用を徹底するために、システムはバーコードスキャンを利用し、他のシステムからのデータにアクセスして、メンテナンス、キャリブレーション、および衛生状態のデータを取得します。これにより、手作業のデータ入力エラーや見落としのリスクを伴わずに、電子機器のログブックとEBRに使用状況を電子的に記録します。
迅速な問題解決
MESから提供されるガードレールであっても、問題が発生する可能性があります。その原因は、オペレータが手作業で追加する際に、ある物質の量を誤って入力するといった単純なケースもありますが、逆に、サプライヤから報告された原材料のばらつきのように複雑である可能性もあります。
堅牢なMESは、このような問題の解決を迅速にサポートします。
第1に、システムは「例外によるレビュー」を可能にします。EBRにより、手作業のデータ入力を時間をかけて行ごとに確認する必要がなくなります。そのため、品質レビュー担当者は、製品の品質に直接影響を与える可能性がある、生産数値の基準外れような重要なプロセス例外に集中できます。
MESは発生したこのような例外を特定し、ダッシュボードを介して適切な担当者に報告することで、リアルタイムの修正と最適化を可能にします。
第2に、システムは完全な系図とトレーサビリティを提供します。MESを使用すると、基準外れが発生した場合に、影響を受けたすべてのバッチ、ロット、および原材料を迅速に特定できます。システムによって、プロセスの各ステップと、材料、機器、人員を含むすべての生産関連のリソースが追跡されるため、根本原因分析の調査時間を最大30%短縮できます。
より良い品質、より良い運用
総合的なMESは、業務をリアルタイムで実行およびモニタできるように設計されています。また、分析の準備が整っている状況に応じた豊富なデータも提供します。
システムから、使用される製品、材料、機器など、特定のバッチに関する多くの情報が提供されるため、手作業の分析であっても、プロセスに関する洞察を迅速に得ることができます。
例えば、MESデータは、一定の時間枠内に発生した基準外れの数と、プロセスのどのステップで最も発生が多かったかを示します。これにより、洞察が得られるだけでなく、手作業ステップの電子検証の追加やオペレータトレーニングの更新のような、品質への影響を軽減するための対応策も得られる可能性があります。
さらに一歩進むと、分析ツールは、MESデータを他のシステムの情報と関連付けるのに役立ちます。例えば、ビル管理システムから温度、湿度、粒子数などのデータを追加すると、環境要因による影響なのかどうかを判断でき、問題の根本原因を特定できます。
利益を拡大し「エバーグリーン」に保つ
MESにより特定の生産施設での運用を大幅に改善できると同時に、製造拠点全体に共通のMESを適用することでこれらの利益を拡大できます。
多くの場合、企業の生産施設は、それぞれ独自の方法で時間の経過とともに進化してきました。何十年も前に設立された企業もあれば、M&Aによって設立された企業もあります。
その理由に関係なく、同じ親会社内のプラントでもかなり独立して運用できるようになりました。
エンタープライズMESにより、すべての生産施設を全体的に把握でき、より大規模なデータセットや堅牢な洞察が得られ、そして、改善のためのより多くの方法が実現します。手順やレシピを共有できるため、1つの施設で特定された改善点を全社的に適用できます。
また、システムのアップグレードに「エバーグリーン」のアプローチを取るMESを選択すると、継続的改善の流れを費用効率に優れた方法で維持できます。
多くのMESソリューションとは異なり、エバーグリーンMESを使用すると、施設のマスタデータとバッチ記録を保持しながら、システムの主要機能を段階的にアップグレードできます。その結果、追加のカスタマイズや新しいレシピの検証のコストをかけることなく、システムを最新の状態に保つことができます。
製造プロセス全体で品質を向上させ、製品を市場や患者に迅速に届ける方法の詳細をご覧ください。
このブログ記事には、ライフサイエンス業界のテクニカルコンサルタントであるライアン・キャンベル氏にもご寄稿いただきました。
公開 2021/03/17