世界中の石油会社は、増加する顧客需要に対応しながら、積極的なサステナビリティ(持続可能性)目標を達成する方法を模索しています。
ロックウェル・オートメーションは2019年、この謎を解く答えは水管理の改善にあると考える中南米の大手石油会社とプロジェクトを開始しました。
同社は、油層に加圧水を注入することで、石油全体の回収率を上げ、石油の生産量を一定に保っています。一定時間にどれだけの石油を生産できるかは、貯留層にどれだけの水を注入できるかに直接関係しています。しかも、その量は膨大で、100バレルのうち98バレルは水で2バレルが石油です。
当該フィールドは高度に自動化されていたものの、制御ループが整備されていなかったため、プロセス制御の改善の余地がありました。また、水の移送と注入の工程が不安定であるという問題もありました。運転に支障をきたすと、圧入ポンプや移送ポンプが完全に停止してしまい、石油の生産量が大きく損なわれてしまうのです。
同社は、水の注入量を増やし、注入流量の変動とエネルギー消費量を削減し、安定したシステムを構築するためのソリューションを求めてロックウェル・オートメーションにコンタクトを取りました。同社のある幹部は、「当社の設置ベースはすべてロックウェル・オートメーションが供給しており、一緒に仕事をしてきた歴史があるので、ロックウェル・オートメーションのテクノロジを使用することは当社にとって有利になるとわかっていました」と、話しています。
ロックウェル・オートメーションのエンジニアであるジャーマン・デイビッド・ゴンザレスは次のように述べています。「私たちはこのプロジェクトを、私たちが提供するソリューションに抱いていたのと同じレベルの自信をお客様に持っていただけるような形で設計したいと思いました。契約の条件として業績指標を設定しました。それは注水量の1%増が契約の条件でした。私たちは、会社と自分たちでリスクを分担しました。」そして、ロックウェル・オートメーションと同社は力を合わせ、注水量を1%増やすことと、注水量1バレル当たりのエネルギー消費量(kW-hr/バレル)を削減するという2つの目標に挑みました。
ソリューション
徹底的な分析の結果、35台の水注入ポンプと3台のプール移送ユニットとパッドにPlantPAx® MPCテクノロジを導入することを決定しました。モデル予測制御(MPC: Model Predictive Control)テクノロジは、将来の運転条件で必要となるプロセス制御をシミュレートし、その条件を実現するための制御動作を行なうことで、プロセスの変動性を低減し効率を向上させるものです。MPCによってプロセスの変動性を低減することができ、運転制限の最大値を超えることなく、その限界まで運転を行なうことができるようになります。
ロックウェル・オートメーションは、MPC技術をハードウェアとソフトウェアの2つの方法で提供することができます。この会社では、Logixハードウェアを設置しているため、MPCテクノロジの組み込みバージョンを選択しました。しかし、MPCテクノロジは、サーバベースのモデル予測制御ソフトウェアソリューションを使用して、既存のシステムの「上に」導入することも可能です。
同社幹部は次のように強調します。「モデル予測制御(MPC)は、世界中で最も利用されている先進的な制御技術の1つです。この種のMPCモジュールは、ほとんどの場合、サーバと大規模なインフラを導入する必要があります。この場合、プラットフォームはどこにでも設置できる小型のコントローラで、導入も簡単です。当社の制御システムのほとんどはすでにロックウェル・オートメーションのものであり、統合は簡単かつ迅速で、しかもパンデミックの最中でも可能でした。」
このプロジェクトは、パンデミック時に作業員の安全を確保するために、すべてリモートで実施されました。ソリューションの設定、テスト、試運転はすべてバーチャルで行なわれ、サイバーセキュリティのベストプラクティスに準拠した方法で実施されました。
利点
注水量の増加率は予想を上回り2.4%に達しました。これは、1日当たり36,000バレル近い注水の増加に相当します。この注水量の増加により、1日当たり548BOPD (Barrels of Oil Per Day: 1日当たりの石油生産量の単位)の追加採油が可能となりました。
これらの結果に加え、より高い安定性と操業の継続性を実現し、プールレベルや吸引圧の低下に伴う損失をなくすことができ、さらにプール水位の低下やパッドの吸引圧の低下によるロスをなくすことができました。また、エネルギー消費量やCO2排出量も削減することができました。
「ロックウェル・オートメーションは当社の現場インフラを熟知しているため、このようなプロジェクトの開発が非常に容易であり、特に、原油生産のビジネスにおいてこのMPCのソリューションが示すイノベーションのレベルには目を見張るものがあります。他の会社であれば、もっと時間とお金が必要だったことは明らかです」と、同社のエンジニアは述べています。
この初期プロジェクトは、2021年4月に完了しました。同社は現在、得られた成果を踏まえて高度なプロセス制御の活用を社内の追加領域に拡大することを計画しています。
公開 2022/10/05