課題
- 曝気槽の効率向上と性能の最適化
- エネルギーの節約
- 化学薬品の使用量削減
- 運用コストの削減
ソリューション
- 人工知能(AI)対応の制御システムにより、運転状況を継続的にモニタ・学習し、状況の変化に応じてPID応答を最適に調整し、最高の性能を実現
- AIアプリケーションをAllen‑Bradley®のCompactLogix™ 5480コントローラにリモートでプログラムし、既存のプラント・オートメーション・ネットワークにインストール
結果
- 曝気槽に供給される風量を最大31%削減
- 1日当たり2,330kWhの電力を節約し、年間10万ドル以上の節約を見込む
- プロセス制御の改善
- より積極的な設定値を設定することが可能
- 廃水の品質向上
- アンモニアの浸出の発生が減少
- 消毒液の必要性が減少
- 曝気維持のためのスタッフ介入が不要
Eastern Municipal Water District (EMWD: 東部市営水道企業団)は、カリフォルニア州リバーサイド郡の558平方マイルに居住・勤務する約100万人の人々にサービスを提供しています。州内第6位の小売水事業者として、「安全で信頼性が高く、経済的で、環境的にサステナブル(持続可能)な水、廃水、再生水サービス」を提供することを使命としています」。
オペレーション&メンテナンス部門のP.E.アシスタント・ジェネラル・マネージャであるマシュー・メレンドレス氏は次のように述べています。「私たちは常に、可能な限り高品質の水を生産し、お客様のコストを抑えるために、可能な限り経済的にそれを行なうよう努力しています」
しかし、人口の増加とサービスエリアの拡大により、同地区への要求は高まっています。現在、4つの再生プラントで1日約4800万ガロンの廃水を処理し、不純物を除去しています。
メレンドレス氏は次のように指摘します。「除去しようとしているのは、主に有機物とアンモニアの2つです。これらをきれいにしないと、環境に大きな影響を与えるのです。」
制御が難しく、エネルギーを大量に消費するプロセス
曝気は廃水処理における重要なステップであり、最もエネルギーを消費するプロセスの1つです。EMWDの工場では、電気料金の半分近くを廃棄物の生分解に使用する溶存酸素に費やしています。
メレンドレス氏は次のように説明します。「この業界では、長い間、曝気制御と水槽のより良い運用方法を見つけることに苦労してきました。流量やアンモニアや有機物の量が急速に変動するため、プロセスパラメータは実質的に1日中刻々と変化し、一般的なPIDセットポイントを溶存酸素(DO)目標値に達するようにプログラムすることは困難です。」
目標を高く設定すると不要な空気を供給するために電力が増加し、低すぎるとアンモニアの酸化が阻害され、消毒や大量の塩素が必要になります。
メレンドレス氏は次のように述べています。「DOの上昇や下降に合わせてゆっくりと空気弁を開閉するシンプルなPID制御システムを採用しているのが一般的です。すべてがフィードバックベースの反応型であり、通常は毎日オペレータが介入して手作業で調整します。しかし、水槽が大きく、状況も変化し続けるため、調整から結果が出るまでにタイムラグがあります。そのため、通常のPIDでは対応が難しく、効率化の大きなチャンスの1つとなっています。
また、曝気性能の向上は下流工程にも好影響を与え、殺菌力の向上や化学薬品のコスト削減が期待できます。
人工知能(AI)と機械学習のソリューション
EMWDは、長年のテクノロジプロバイダの1つであるロックウェル・オートメーションに、曝気運転の現状を学習し、最小限のスタッフの介入で、条件の変化に応じてPID応答を最適に調整する人工知能(AI)アプリケーションを開発・テストするよう依頼しました。
EMWDは、ロックウェル・オートメーションの廃水処理、ソリューション&サービス、高度な分析の各チームとともに、1日700万ガロンの水を処理するサンジャシント・バレーの再生処理施設でAI対応の制御システムを試験的に導入しました。工場のスタッフは、既存のオートメーションネットワークにAllen‑BradleyのCompactLogix™ 5480コントローラを設置し、必要に応じて他のプロセスとのインターフェイスができるようにしました。
メレンドレス氏は次のように述べています。「制御にはすでにロックウェル・オートメーションを使用しているので、これは当社の他のシステムとうまく統合できる良いソリューションだと思いました。インストールと実装は、若干のプログラミングで簡単にできましたし、将来的にはモジュールを追加することなく、他のプロセスにもユニットとAIを導入できる可能性があります。ロックウェル・オートメーションのおかげで、チームとして緊密に協力しながらスムーズに作業を進めることができました。」
2つのLogixコアが制御システムに接続し、他の2つのプロセッサがロックウェル・オートメーションのAIソフトウェアを実行します。AIは、PID応答を継続的にモニタして更新することで、曝気槽に供給される空気量を制御します。そのデータは、DOがセットポイントから大きく逸脱する前に、エアバルブと供給する酸素の量を調整するために使用されます。
メレンドレス氏は次のように説明します。「ロックウェル・オートメーションのデータサイエンティストは、機械学習を利用して、廃水流量とアンモニア負荷が酸素性能に最も大きな影響を与えることを突き止めました。彼らは、任意の速度と負荷に対するDOの需要をかなり正確に予測するモデルを構築し、AIソフトウェアをリモートでプログラミングしました。」
その後、EMWDは従来のPID制御を1ヶ月間、AI搭載制御をもう1ヶ月間行ない、結果を比較しました。
大幅な性能向上
AIを用いた制御により、EMWDは曝気槽に供給する空気の量を31%も減らすことができました。DOをセットポイントに近づけて運転することに成功しただけでなく、DOの目標値も下げることができました。DO制御が改善されたことで、アンモニアの浸出が減り、消毒液の必要性が減るなど、排水の品質も向上しました。
「このように、機能せず、定期的に人の手を借りなければならなかったものが、完全自動化され、性能の大幅な向上、財務的なメリット、二酸化炭素排出量の削減を実現するのを見るのは、非常にエキサイティングでした」と、メレンドレス氏は語ります。
DO制御の改善により、工場のエネルギー消費は1日960キロワット時(kWh)削減され、年間42,000ドルの節約になると同氏は見積もっています。さらに、DOのセットポイントを下げられるようになったことで、1日に1,370kWhの電力をセーブでき、年間60,000ドルの節約になるといいます。
ロックウェル・オートメーションのEMWD向けの水/廃水処理アカウントマネージャであるミヤン・ブルドンは、このアプリケーションが業界にもたらす可能性に期待を寄せています。彼女は、「私たちは、人工知能(AI)と機械学習がオペレーションのサステナビリティ(持続可能性)と生産性の両方を向上させる方法をEMWDや他の上下水道事業者と探求したいと考えています」と、述べています。
EMWDは、AI対応の制御システムを継続的に使用し、ロックウェル・オートメー ションと協力して、同地区の他の曝気池にも適用を拡大したいと考えています。メレンドレス氏は、AIソリューションを適用するもう1つの機会として、消毒・殺菌を考えています。
公開 2022/10/30