フェリング・ファーマシューティカルズ社(スイス、サンプレ市)は、不妊や産科学、消化器病学、内分泌学、骨関節炎の各分野に使用する生物学的製剤の特定、開発、市場投入に特化した研究志向のバイオ医薬品メーカです。
1950年代に設立を遡るフェリング社は、下垂体で自然に生産されるペプチドホルモンをベースとした製薬品の開発、販売を手がけています。受賞歴を誇る社内開発の治療法が、アルゼンチン、中国、チェコ共和国、デンマーク、ドイツ、イスラエル、メキシコ、スコットランド、スイスなどの海外でも実施されたことから、当社の国際的知名度はここ数十年で急速に高まっており、米国とインドにも製造施設の新設が予定され、建設が進められています。
サンプレ市にあるフェリング社の施設は最先端の多目的施設で、同社の乾燥製品や全製品の二次包装と販売について生産能力の拡大を図っています。
同社の成長は目覚しく、このことは生物学的製剤の製品ラインが著しい成長を遂げ、製品の生産と世界各国への供給に必要な能力の増強が求められていることからも明白です。しかしどの企業にも言えるように、こういった成長を効果的に管理することは大変難しく、厳しい規制環境の基に製薬業界全体とその製造プロセスが成り立っているため複雑さはさらに増します。
創業年数の近い他のバイオ医薬品メーカと同様、フェリング社は紙ベースのバッチ記録管理システムでバッチ処理生産サイクルに対応していました。この記録管理システムは同社の品質保証/品質管理(QA/QC)体制の基盤でもあり、これは連邦食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)といった国際的な規制機関に同社が準拠するために不可欠です。
成長への挑戦
市場での成功により成長が拡大するにつれ、運用の改善や市場投入までの時間の短縮、品質とコンプライアンス体制の強化に取り組み、国外のサプライチェーン全体で品質とコンプライアンスをより正確に管理するための優れたツールを従業員に提供しなくれはならないことは企業幹部にとって明白でした。
マネージャたちは、電子バッチ記録(eBR)アプリケーションを手始めに統合された製造実行システム(MES)を導入することが解決策になると考えました。製薬では、法規制を遵守し、製品の「時間連鎖」を管理するうえでバッチ記録とプロセスの透明性は極めて重要な要素となります。
フェリング社のリーン・シックス・シグマ推進アソシエイトディレクタであるジェローム・レピトン氏は、2014年に開催されたロックウェル・オートメーションのTechEDで、製薬業界における製造のリードタイムは120~180日と他の業界に比べると長く、医薬品メーカに対する規制機関の要求がその背景にあると説明しました。レピトン氏は次のように説明しています。「そして特に競合他社と比較した場合、フェリング社のリードタイムは「非常に長い」のです。eBRを導入し、それを最新のMESに統合することは「連鎖におけるステップを取り除く」うえで有用だとマネージャたちは感じています。」
製品の製造リードタイムの枠に当てはめて考えると、フェリング社の製造ステップはプロセスの要素としては短い方だと同氏は述べます。最も時間を要するのはQA/QC認定のテストと審査であり、数週間もかかることがあるうえ、製品製造後に実施されることも多々あります。
「情報がなければ製品を管理することはできませんし、コンプライアンスを確保することも不可能です」と、レピトン氏は述べています。フェリング社の抱える課題は、すべてのバッチ情報が紙ベースで生成され、これが標準の運用QC手順に組み込まれているため、バッチ製造からリリースまでの期間が44日以上も延びてしまうことでした。2010年、フェリング社はサンプレ市の主要施設でFactoryTalk® PharmaSuiteTMを基盤としたeBR/MESソリューションの導入を開始しました。
eBRとリアルタイムの透明性
レピトン氏は次のように述べています。「紙ベースのシステムは遅延が多く、どんなによく整備されていても、フェリング社がサプライチェーンを効果的に管理するうえで必要なリアルタイムのプロセスの透明性は実現できません。eBRソリューションは製造業務のGPSのようなもので、最短経路を見つけてユーザを希望の目的地まで誘導し、危険な要素があれば警告を発し、リアルタイムのフィードバックを提供してくれます。」
「eBRがプロセスの透明性を実現する鍵となることをフェリング社は理解しています」と、レピトン氏は説明します。プロセスの透明性が確保できれば、プロセスの傾向を同じタイムフレームで理解し、品質に影響を与える逸脱があれば即座に把握することが可能です。バッチレシピ(GPSに例えた説明での「目的地」)の特長をもつロックウェル・オートメーションのプロセスデータを提供する技術があれば、アプリケーションのダッシュボードから逸脱を瞬時に確認することができます。
「紙を使用する場合、誰かに内容を確認してもらうのを待たなくてはなりません」と、レピトン氏は言います。リアルタイムのプロセス情報が提供されれば、製造後でなく製造中にバッチの品質レビューができ、異常発生時のみ対処するという管理法が実現します。「何も問題がなければ、あとはボタンを押すだけです」と、レピトン氏は語ります。
フェリング社にとって、FactoryTalk PharmaSuiteの導入はプロセス品質と品質保証プロセスの改善に向けたプログラムでした。現在では、QA/QCのレビューにかかる時間を含め、製造開始から完成までの時間の経過を追跡できるようになりました。「このおかげで、今回の取組み全体における主要目標の1つであった、製造工程にかかる時間の半減という画期的な改善を実現できました」と、レピトン氏は語ります。
2010年のeBR/MESプログラムの開始以降、同社が処理するバッチ数は7000から1万1000へと大きく増加しました。レピトン氏によると、同じスタッフ数でわずか5年間にして56%という急激な増加を遂げ、真の投資利益率を達成できたそうです。
「FactoryTalkの導入により、広範なプロセスデータを重要な運用に利用できるようになったおかげで、フェリング社は研究所情報管理システムや基幹システムなどのシステムと同社のITインフラ基盤を統合する確固たる基盤を構築し、これによってコンプライアンスや俊敏な競争力といった組織の目標を支援するMESが実現しました」と、レピトン氏は説明します。
同社は、インドや米国の新設施設をはじめ、海外の運用にもこの総合的なソリューションを展開する予定です。「オペレーショナルエクセレンスの実現に向けた今回のプロジェクトにより、フェリング社はバイオ製薬ならではの複雑さに対処し、世界各国の規制機関の要求に対する事前策を講じれるようになりました」と、レピトン氏は締めくくっています。
ロックウェル・オートメーションのFactoryTalk Suiteについてご覧ください。