産業消費者の多くはこれまで、電力と天然ガスの使用料金は自社の経理部門に担当させればよいとする傾向がありました。しかし、この状況は今、様変わりしています。
使用者の間で、電力などのエネルギーが自らの創出する収益に大きな影響を及ぼす可能性があるという認識が高まっており、今日では多くの製造メーカが全体的な効率とパフォーマンスの最適化に際してこの点を考慮するようになりました。2015年、シカゴで開催されたAutomation Fair® (オートメーションフェア)の「Power and Energy Management Industry Forum」では、こういった先駆的企業数社が自らの体験と教訓を発表しました。
エネルギーとその使用者にとっての新たな課題
ロックウェル・オートメーションの電力およびエネルギーサービスを担当する市場開拓部門マネージャのマリー・バーグーンの報告によれば、電力とエネルギーのあり方には以下のような要因が影響を及ぼしています。
- 世界中の全プラントにおいて、高品質の製品を可能な限り低コストで生産しながら収益性を向上させなければならないという経済的圧力
- 生産の全段階においてエネルギー消費と排出ガスを削減し、ブランドの評判を維持するというサステナビリティ実現への圧力
- 排出ガスに関する現行および将来の規制に対するコンプライアンスへの圧力
- 限られたエネルギー資源でやりくりしながら信頼性と可用性を維持しなければならないという調達上の圧力
これらの要因により、オートメーションの要件も変化しています。資産性能管理や、リモートモニタおよび制御、モバイルサービスとセキュアな接続を通じた全社規模での視覚化といった機能を提供してこそ、効果的なソリューションと呼べるのです。
「“コネクテッドエンタープライズと産業用モノのインターネット(IIoT)を活用すれば、電力およびエネルギー分野においてこれを実現できます。具体的には、スマートデバイスの増加に伴って分析対象が増え続けるなか、状況を考慮しながらこれらのデバイスからの情報を評価するデータ分析機能がその要素のひとつです。また、クラウドおよび仮想コンピューティングによって信頼性やサポート体制、障害回復能力が高まり、設備コストから柔軟かつ拡張性の高い運用コストへの転換が促進されます。さらにモバイル・ワークプレイス・デバイスでは、実用的な情報へのアクセスを改善できます」と、バーグーンは説明しています。
「これによって生産のスマート化が実現し、市場の需要に対する機敏な対応や、プラントの可用性と信頼性の向上、セキュアなアクセスの促進、運用コストの削減といったメリットが得られます。」
フッド社がコジェネレーションによってコストを半減
効率とサステナビリティの向上を同時に達成した企業のひとつに、HPフッド社があります。バージニア州ウィンチェスターにある同社のプラントでは、年間約57万キロリットル(1億5000万ガロン)の乳製品およびその他飲料が生産されています。同社は最近、温室効果ガスの生成を2020年までに25%削減するという乳製品業界のイニシアチブ達成を目指し、コジェネレーション(CHP)アプリケーションを導入しました。CHPをプラントのローカルグリッドに連結するというのがその具体的な計画ですが、これによって複雑さが増すほか、プラントの限られた設置面積に適合しなければならず、既存の蒸気システムとの統合も必要でした。
フッド社のプラント・エンジニアリング・マネージャであるジェイミー・ガノエ氏は次のように語っています。「このCHPプロジェクトは、サステナビリティと収益性の両方にプラスの影響を及ぼすという使命を負っていました。グリーンな運用と言えども、両方向性が必要だったのです。」これを踏まえ、フッド社はZFエナジーディベロップメント社の協力の下、いくつかの設計について評価を行ない、2つのボイラーを備えたタービン駆動の天然ガス発生器を設置するという結論にいたりました。
この装置は、PlantPAx®という最新式のDCS (分散制御システム(DCS))およびAllen-Bradley® ControlLogix®PLCとそのサポートコンポーネントによって制御されることとなり、プラントの既存のロックウェル・オートメーションのアーキテクチャに統合されました。システムの統合を担当したのは、バリー・オートメーション社です。この2万hpのタービンはSolar Titan 130と呼ばれるもので、15MWの出力と350 psiでの天然ガス供給を誇り、SoLoNOx (低排出の燃焼システム)を採用しています。
「この発生器はグリッドと並行して動作します」と、ガノエ氏は語ります。出力レベルは、プラントにおける需要とエネルギー市場の状況をリアルタイムで考慮したうえで設定されます。ローカルグリッドとの同期には、バスラー・エレクトリック社の自動スイッチギアを使用しています。「CHP式の発生器のスタートアップは今年の5月でしたが、それから1年足らずで、エネルギーコストへの影響はすでに明白です。」
「生産量は全体的に安定して伸び続けているにもかかわらず、総エネルギーコストは約半分にまで激減しました。資金回収期間は2~3年と見込んでいますが、これだけの規模のプロジェクトにしてはかなり短い方でしょう。また、プロジェクトの成果が成熟するにつれて廃熱の新たな活用法が見つかったため、将来的にはこれに関連するプロジェクトも予定しています」と、同氏は語っています。
アーカンソー州の電気協同組合が排出ガスを管理
次々と高度なソリューションの開発が進んでも、電力・エネルギーアプリケーションの多くは当然ながら排出ガスに関する複雑な規制へのコンプライアンスを維持しなければならず、これは排出ガス制御システムにアップグレードする際も同様です。
アーカンソー・エレクトリック・コープ (AECC)社は17の地域協同組合の所有下にあり、州の面積の16%、人口の35%に電力を提供しています。ボイラー2基と燃焼タービン(CT)11基、水力発電所9か所、ソーラーおよび風力アプリケーション数件を運用し、その供給力は全体で3400MWに上ります。
これらの資産に加え、AECC社は2005年にオズワルド発電所を買収し、2006年に操業を開始しました。リトルロックから約30km南に位置するこの510 MW規模の発電所は、年間約1000時間稼働する最大規模のプラントです。米国に2か所ある、特殊な複合サイクルによる設計・構成を有する発電所のひとつでもあり、7基のCTと2基の蒸気タービンを保有しています。
AECC社は、O2およびNOx、COの発生を常にモニタし、蒸気注入によるNOx制御を行なう必要があり、米国環境保護庁(EPA)およびアーカンソー州環境品質局(ADEQ)が連続排出量監視システム(CEMS)や酸性雨その他について定めている規制や基準も遵守しなければなりません。
AECC社のCEMS技術専門家であるティム・ビベンス氏は次のように述べています。「2005年にオズワルド発電所を買収した際、CEMSが製品寿命に近付いていたため、交換にとりかかる必要がありました。CEMSか、予測排出量モニタシステム(PEMS)かという二択でしが、コンプライアンス上、EPAとADEQがPEMSをハードウェアであるCEMSと同等のものとして認めてくれなければならないという問題がありました。」AECC社は、ロックウェル・オートメーションのPavilion 8ソフトウェアをPEMSとして実装することを検討していたのです。
「7つのシステムのCEMSを単純に交換するだけでも、21台のアナライザと4台のPLC、7つのプローブ、7本のサンプルラインが含まれますが、実際にはさらに、年間シリンダ30本分のキャリブレーションガスに加え、保守に必要な工数分の追加人件費、スペアパーツの在庫管理コストがかかります」と、ビベンス氏は説明しています。「PEMSの場合、最初にハードウェアとインストールが必要となりますが、ガスやスペアパーツは不要ですし、保守も最小限で済み、毎分検証が行なわれるため信頼性にも優れています。」
これらの評価を踏まえてAECC社はPEMSを選択しましたが、EPAに計画書を提出して40 CFRパート75サブパートEの規定に基づく承認を受けなければならず、さらにADEQの承認も必要でした。そのプロセスには、720時間分の動作データの統計分析を実施し、これに合格すること、そして、申請内容とともに補足データをEPAに提出することが含まれます。
AECC社が2013年2月に申請書を提出してから長期にわたる承認プロセスが始まり、2013年3月と2014年2月にはEPAの審査官との面談も行なわれました。PEMSの使用に関するAECC社の申請は2015年3月にようやく承認されましたが、その条件として同社はいくつかの指示を受けました。具体的には、センサのテストを実施し、各ユニットの相対精度監査(RAA)を四半期ごとに行なうこと、また、コンプライアンス手順の猶予期間を再設定すること、PEMSの検証データを使って品質保証/品質管理(QA/QC)関連事象を毎日確認・記録すること、EPAが規定する通り起動時とシャットダウン時に最大排出濃度(MER)を記録することです。
ビベンス氏は次のように付け加えています。「これらを行なった結果、当社のPEMSはその精度を実証でき、6つの相対精度試験監査(RATA)に合格しました。もちろん信頼性も以前より向上しています。」オズワルド発電所の既存のプラント制御システムの装置類を使って動作するこのPEMSは、リアルタイムの気象条件データを統合し、すべての入力センサを毎分検証するうえ、「年間5万ドルの節約を実現」したとのことです。
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ロックウェル・オートメーションおよび当社PartnerNetwork™の「The Journal」は、Putman Media, Inc.によって発行されています。