このブログのパート1では、中小規模のバイオ製剤メーカによるシングル・ユース・システムの設備導入において、最新の分散制御システム(DCS)を採用した事例を紹介しました。それは、現在および将来にも大きな影響を与えるアプローチであり、スケールアップ、スケールダウンが容易な柔軟性の高い操業を可能にします。これまでに、最適なDCSの選択が以下の2つの分野にもたらす効果の状況を検討しました。
- ネットワークインフラ: 接続を簡素化して、シームレスなデータアクセスを実現
- オペレーションの柔軟性: 技術移行とプロセス開発に伴う労力を軽減
ここでは、法規要件への適合、検証労力の削減、新規デジタルテクノロジや分析ツールの採用、および総所有コストの低減に役立つ4つの分野を紹介して、DCSの導入メリットについて説明します。
テクノロジの標準化
シングルユース施設にカスタマイズされた技術や機能が組み込まれる機会が増えるほど、設計・運用・保守活動に専門的な知識が要求されるようになります。このような専門的な知識の必要性から、製造メーカは可能な限り標準規格を制定し、活用することが望まれます。
国際オートメーション学会(ISA)のISA-88 (1)、ISA-18.2 (2)、ISA-101 (3)などの規格は、手続き制御、アラーム管理、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)のスタイルなど、複数の機器にわたって一貫した設計手法を取ることを支援します。これらの規格は、市販の既製品のソフトウェアライブラリを使用して、最新の制御システムを構築することで容易に実現できます。こうしたクラスベースのライブラリを使用して、機器製造メーカはアプリケーションに特化したソフトウェアをより短時間かつ低コストで作成できます。
またこれらのライブラリにより、検証チーム、プロセスエンジニア、サポート技術者など、機器を引き継ぐ担当者は障害なく作業を進めることができます。その理由はソフトウェアのリスクが低く、一貫した情報を提供し、保守が容易だからです。
ライブラリにはポンプ、バルブやその他のデバイスの個々のクラスの標準的なデータ構造も含まれています。これらのデータ構造は機器の分析を構築するベースを提供し、長期的に製造メーカがプロセスパフォーマンスや機器の稼働時間を向上させるのを支援します。
オペレータの経験
オペレーションスタッフのユーザエクスペリエンスは、これまでのオートメーションプロジェクトではほとんど無視されてきました。しかし、製造メーカがさらに有能なスタッフを育成したい場合、制御システムのユーザエクスペリエンスを優先対処項目にすることを検討すべきです。例を挙げると、再使用可能なクラスベースのオブジェクトのライブラリを使用して、スタッフ用に共通スタイルのユーザインターフェイスを製作できます。例えば、バルブの外観と操作性は、バイオリアクタでもタンジェンシャルフローろ過(TFF)スキッドでも同じになります。
また、製造メーカの視覚化システムはISA 101 (3)などの業界規格を確実に適用する必要があります。規格はオペレータが異常なプロセス状態に注意することを助け、必ずそれらを確認し、速やかに対応できるようにします。
新しいテクノロジへの対応
新しいテクノロジはシングルユース施設の従業員の働き方を変えています。おそらく拡張現実(AR)ほどその傾向が強いものはないでしょう。製造メーカはARのようなテクノロジをどのようにして有意義な方法で施設に適用できるのでしょうか? それを明らかにする最良の方法は、オートメーションエンジニアがプロセス・エンジニアリング・チームやオペレーションチームとミーティングを持ち、テクノロジによって対応できるニーズや潜在的リスクを検討することです。
例えば、シングルユース(使い捨て)の消耗品消耗品の場合は、オペレータはセットアップ時に何百という接続を衛生的かつ無菌で実施する必要があります。1つの接続ミスが高額なバッチ損失を招くこともあります。この作業をAR環境で実行することによって、オペレータは各接続を確認でき、間違いの可能性を減らすことができます。
または製造オペレータが媒質を汲み上げるなどの作業をしているときにHMIを見ることができない、ということもあるでしょう。この場合、重要なアラーム発生を知り得ないという恐れがあります。もしこの作業でオペレータがARのヘッドセットをすればメリットがあるのではないでしょうか。そうすればアラームの発生を視認できる可能性が高まります。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティのリスクを軽減することは、ほとんどのバイオ製剤メーカによって優先事項です。堅牢なサイバーセキュリティへの取り組みは、製造メーカが慎重に扱うべき法規データとプロセスデータを保護するのに役立ち、その一方でデジタルオペレーションの多くのメリットも実現します。
この取り組みにはISA/国際電気標準会議(IEC) 62443 (4)などの規格を適用した制御システム設計も含まれます。この規格は合意に基づくオートメーション向けサイバーセキュリティ規格です。この規格では、多層の保護層を設けることで、特定のセキュリティ層が機能しなくなった場合でも、最大の冗長性を提供することを定めています。このコンセプトは多層防御戦略と呼ばれ、個人的な知識や自覚、物理的セキュリティ、アプリケーション、そしてデバイスのセキュリティにも及びます。制御システムの中には現在この規格に対して認証されているものもあります。
CIP (Common Industrial Protocol: 共通産業プロトコル)セキュリティに対応した制御機器は、もう1つの保護層を提供します。CIP Securityは、オートメーション業界団体であるODVAが提供するCIPの拡張機能です。これはデータの真正性、完全性、機密性を使用して、産業用通信に対する攻撃からの保護を実現します。また、産業用資産管理ソフトウェアは、セキュリティイ事故の発生後に極めて重大な、復旧および自動バックアップ機能も提供できます。
生産までの工程を容易に
最新のスケーラブルで柔軟な制御システムは、自動化されたシングルユース施設を開発するための実用的なアプローチを提供します。適切な設計選択によってこのアーキテクチャは、製造メーカがその事業と共に拡大および進化させる接続された情報主導型の施設を構築できます。