私は用語学者として、製品の技術資料やクリエイティブなマーケティング資料で使われる用語から、世界中のお客様に届く翻訳まで、企業として使用する言語を研究しています。
言葉は、人間関係を構築し、つながりを築くのに役立ちます。しかし、言語は私たちの帰属意識に障害をもたらすこともあります。私たちが会話や技術用語の中で使う言葉は、人種、民族、文化、性別、宗教、考え方など、私たちの文化の中にある偏見を反映していることがあります。
科学技術においても、言語は中立ではありません。
2020年6月、機能間での用語の使用を再検討することが新たな緊急課題となりました。ジョージ・フロイドの死をきっかけに、組織的な人種差別とその影響について、米国全土に(そして世界的に)広く呼びかけが行なわれました。ビジネスの世界では、企業が制度的な人種差別について発言し始めました。ロックウェル・オートメーショ ンもそのような企業のひとつであり、私たちはダイバーシティ(多様性)、公平性、インクルーション(包括性)に取り組み、より良い方向に変化していくことを約束しています。お客様、パートナ、従業員、そしてコミュニティに対して使う言葉、すなわち「インクルーシブランゲージ(包含的言語)」は、その変化の一部です。
ロックウェル・オートメーションにおけるインクルーシブランゲージ
私のような用語学者にとっても、この会社にとっても、インクルーシブランゲージやインクルーシブな用語は長年にわたって使用を検討されてきました。
ロックウェル・オートメーションのコモンアーキテクチャ&テクノロジ担当バイスプレジデントであるユルゲン・ヴァインホーファーは次のように述べています。「実は、これはロックウェル・オートメーションにとってまったく新しい概念ではなく、我々の言葉も年々変化してきています。例えば、90年代後半から2000年代前半にかけては、Man-Machine Interface (MMI)という言葉をいたるところで使っていました。現在では、誰もがHMI (Human-Machine Interface: ヒューマン・マシン・インターフェイス)と呼んでいます。ほとんどのジュニアエンジニアは、MMIが何であるかさえ知らないでしょう。今回の取り組みは、これまでの取り組みを踏まえたものであり、より多様でインクルーシブな企業を構築するために行なっている数多くの活動の1つです。」
最近では、従来、性別を表す代名詞であった"he"や"she"が"they"に置き換えられるなど、性別にとらわれない言葉が広く受入れられるようになってきました。しかし、一昔前には受入れられていた言葉でも、今では受入れられていない場合もあり、家庭の食卓や職場では視点の異なる議論が交わされることもあります。
何十年も使われてきた言葉を変えたり、更新したりするのはフラストレーションがたまるかもしれませんが、社会や文化の変化を反映して言葉を進化させることに前向きになることを私たちに教えてくれます。
「マスタ」と「スレーブ」という言葉があります。これらの言葉はエンジニアリングの領域に浸透していますが、最近になって奴隷制度との関連性が指摘され、多くのハイテク企業で注目されるようになりました。segregate (隔離する: 「分離する」、「人種差別する」の意味も持つ)やman hours (工数)などの他の用語も、インクルーシブなコミュニケーションという点では同様の課題があります。
技術的な情報を正確に伝えるために、"kill"や"product infant mortality" (infant mortalityの意味は「乳児死亡率」)といった言葉を使わなければならないのでしょうか? 同じアイデアを表現するにしても、さまざまな方法があるからです。むしろ、別の用語を使うことで、元の用語が持つ曖昧さを取り除き、伝えたいメッセージをより正確に伝えることができると考えています。
インクルーシブな用語の採用イニシアチブの立上げ
2020年8月、ロックウェル・オートメーションは「Adopting Inclusive Terminology (インクルーシブな用語の採用)」イニシアチブを正式に開始しました。このイニシアチブの目的は、当社の製品やコンテンツにおける攻撃的で人種的に偏った言葉を特定し、置き換え、回避するための統一されたガイダンスを作成することです。
この取り組みには、システム・アーキテクチャ・マネージャであるラジ・ゴビンダラージを中心に、製品管理、製品開発、オペレーション、規格、マーケティング、テクニカルコミュニケーションなど、部門を超えたグループが参加しました。このグループは、お客様向けのコンテンツ、製品、規格、コミュニケーションに存在する、インクルーシブではない用語を見直しました。
この取り組みに対する社内の反応や支援は驚くべきものでした。これほど多くの社員が、ロックウェ・オートメーションルがインクルーシブな用語のリーダであることを確信することに情熱を傾けていることは、インクルーシブとイノベーションの両方に対する当社のコミットメントを物語っています。しかし、変化は難しいもので、誰もが同じようにその必要性を感じるわけではないことを認識しています。
この取り組みは単なるプロジェクトではなく、従業員、パートナ、お客様との会話の中で、すべての人の視点に耳を傾けたいと考えています。このような会話は容易ではありませんが、それこそがよりインクルーシブな文化を構築し続けるための助けとなるのです。
ラジ・ゴビンダラージは次のように述べています。「私は、当社の製品やそれに関する記事が、当社の価値観やダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みをどのように表現しているのか、この複雑な変化をリードしようとしている企業で働けることを誇りに思います。私の同僚の多くが、この会話に熱心に参加し、真の情熱をもって私たちの旅に貢献しようとしているのを見るのも同様に嬉しいことです。」
では、何が変わるのでしょうか?
私たちが用語を変更する基準は、下品で軽蔑的な用語、人種、民族、年齢、ジェンダー、宗教、性的指向、ジェンダーアイデンティティ、健康や能力、社会経済的地位、政治的見解などに関する無意識の偏見を含む用語、暴力的な比喩を連想させる用語などです。
変更する用語は、man hours、senior moment、blacklist、whitelist、black hat hacker、white hat hackerなどです。
「master」や「slave」といった用語は、現在も検討中であり、変更が最も困難であると同時に、最も重要な用語でもあります。これらの用語は、産業用オートメーションの世界では、複数の異なる意味を持ち、ソフトウェアやファームウェアのコード、技術やマーケティングのコンテンツに組み込まれています。多くの意味があるため、エラーが発生したり、代替品を混乱させたりするリスクが高く、グローバルな検索と置換は不可能です。さらに、この2つの用語の用途の中には、IEEE、IEC、ODVAなどの技術規格と密接に関連しているものもあります。私たちは、今回の変更が一貫性のある正確なものとなるように、標準化団体と協力し、その勧告を求めています。この変更には多大な時間と労力がかかることは承知しています。
特定の用語の変更については決定しましたが、次のステップ、つまりその変更を製品に実装することは、重要かつ複雑です。何千もの製品とそれを説明する何百万もの言葉がある中で、製品間、製品とユーザ補助コンテンツ間、当社とパートナのコンテンツ間には非常に多くの依存関係があり、さらに標準規格にも依存しています。これらをすべてスケールアップして同期させるのは大変な作業ですが、私たちはそれに全力で取り組んでいます。
私たちは、オートメーション、テクノロジ、ソフトウェアの世界に変化をもたらすための計画を実行します。そして、パートナ、標準化団体、顧客などの大きなネットワークと連携することは、明確で一貫性があり、最終的にはインクルーシブであることを確認するための鍵となります。
私たちが世界をどう見ているか、世界が私たちをどう見ているかを再考する
インクルージョンに関しては、大局的な観点からも検討しています。この取り組みは、単に言葉を置き換えるだけではなく、再考し、ニュアンスの違いを見極め、心を込めて包括的な方法で言葉を使うことを目的としています。私たちは、単にボックスにチェックを入れるだけではありません。グローバルな視点を通して見ることで、私たちが世界をどう見ているか、世界が私たちをどう見ているかを再考したいのです。
これは旅であり、ロックウェル・オートメーションが私たちの業界とお客様のために導く手助けをする旅でもあります。私たちは、自分たちの歴史を認識し、過去から学び、その経験をもとに、より良い人材、より良い包括的な企業へと成長させていきます。
この取り組みは、ダイバーシティ、公平性、インクルージョンに対する当社のコミットメントを反映したものであり、当社がその一員であることを誇りに思っています。